葬儀における樒の役割と注意点
樒(しきみ)は、マツブサ科に属する常緑高木で、一年を通して緑の葉を保ちます。仏教の儀式には欠かせない植物として、古くから大切に扱われてきました。春を迎える3月頃には、葉の付け根に小さな黄色の花を咲かせ、独特の芳香を漂わせます。この香りは、人によっては好き嫌いが分かれることもあるかもしれません。樒には、地域によって様々な呼び名があり、ハナノキ、ハナシバ、コウシバ、仏前草など、親しみを込めて呼ばれています。樒が神聖な木として扱われ、墓前や仏壇に供えられてきたのには、いくつかの理由があります。一つは、その強い香りが邪気を払う、あるいは悪霊を退散させると信じられていたためです。古来より、人々は目に見えない力に畏敬の念を抱き、樒の香りに守りを求めてきました。また、樒は常緑樹であることから、その変わらぬ緑の姿が、永遠の命や変わらぬ心を象徴するものと考えられてきました。人の世の無常とは対照的に、常に緑をたたえる樒の姿は、故人の霊を慰め、永遠の安らぎを願う人々の心に寄り添ってきました。現代においても、葬儀や法事の際に樒は重要な役割を果たしています。葬儀場や自宅の祭壇には樒が飾られ、厳粛な雰囲気を醸し出します。また、樒の葉を湯灌の際に使用することもあります。これは、故人の体を清め、あの世へと送り出すための大切な儀式の一つです。このように、樒は古くから現代に至るまで、日本の葬儀文化と深く結びつき、人々の心に寄り添い続けています。