お彼岸と墓石:先祖供養の心
「彼岸」という言葉は、私たちが暮らすこの世、すなわち「此岸」に対して、向こう岸にある世界、つまりあの世を指す言葉です。もともとはサンスクリット語の「波羅密多」を語源としており、迷いや苦しみに満ちた世界から、悟りの世界へと到達することを意味しています。仏教では、この悟りの世界に到達することを目指して修行を積みます。この彼岸は、春と秋にそれぞれ一週間ずつ訪れます。春の彼岸は「春彼岸」、秋の彼岸は「秋彼岸」と呼ばれ、いずれも国民の祝日である「春分の日」「秋分の日」を中日として、前後三日ずつを含めた七日間です。この時期は太陽が真東から昇り真西に沈むため、昼と夜の長さがほぼ同じになります。自然界のバランスがとれたこの特別な時期に、ご先祖様を偲び、感謝の気持ちを新たにする機会が設けられているのです。彼岸の中日である春分の日と秋分の日は、国立天文台が作成する暦に基づいて決定されます。そのため、年によって日付が変わることもあります。春分の日は概ね三月二十日前後、秋分の日は概ね九月二十三日頃になります。彼岸には、お墓参りをしてご先祖様を供養する風習があります。お墓を掃除し、花やお菓子、故人の好物などをお供えして、手を合わせ、感謝の思いを伝えます。また、ぼたもちやお萩をお供えする習慣も広く知られています。これらは、春のお彼岸には牡丹の花に見立てて「ぼたもち」、秋のお彼岸には萩の花に見立てて「おはぎ」と呼び名を変えている地域もあります。彼岸は、単にご先祖様を偲ぶだけでなく、自分自身を見つめ直し、生きる意味を考える大切な機会でもあります。慌ただしい日常から少し離れ、静かに自分と向き合う時間を持つことで、新たな発見や気付きがあるかもしれません。