逮夜:大切な人を偲ぶ夜
逮夜とは、故人がこの世を去った後、火葬する前夜に行う儀式のことを指します。本来は「逮夜」という言葉の通り、夜通し故人の傍らで時を過ごし、火葬の時まで寄り添うことを意味していました。文字通り夜を捉える、つまり夜通し故人のそばにいるという意味です。かつては、故人が亡くなると自宅に安置し、家族や親族、近しい人々が集まって夜通し故人の霊を見守りました。これは、故人の霊が迷わずあの世へ旅立てるよう、そして現世に残された人々が故人の冥福を祈るために行われていました。しかし、現代では火葬は一般的に、通夜振る舞いではなく日中に行われることが多いため、逮夜は命日の前夜を指すようになりました。つまり、故人が亡くなった日の前夜ではなく、一周忌や三回忌といった命日の前夜を逮夜と呼ぶようになったのです。これは、現代社会の生活様式や葬儀の簡略化に伴う変化と言えるでしょう。通夜と逮夜は混同されがちですが、本来は異なる意味を持つ言葉です。通夜も故人の霊を慰め、冥福を祈るための儀式で、夜通し行われていましたが、逮夜は火葬までの時間を故人と共に過ごすという意味合いが強かったのです。通夜は、故人の死を悼み、別れを惜しむ儀式としての側面が強いのに対し、逮夜は故人の霊を見守り、あの世への旅立ちを見送るという意味合いが強いと言えるでしょう。時代の変化とともに、火葬のやり方や葬儀の簡略化が進み、逮夜本来の意味合いは薄れつつありますが、大切な人を偲び、冥福を祈る気持ちは今も昔も変わりません。逮夜には、故人の霊前で静かに夜を明かし、これまでの思い出を振り返り、感謝の気持ちを伝える大切な時間としての意味合いが込められています。また、親族や親しい友人が集まり、故人を偲びながら語り合うことで、悲しみを分かち合い、互いに心の支えとなる場にもなります。故人の在りし日の姿を思い出し、共に過ごした時間を振り返りながら、感謝の思いを新たにする、それが現代における逮夜の意義と言えるでしょう。