贈り名:故人の人生を称える尊い儀式
「贈り名」とは、亡くなった方に贈る名前のことで、漢字では「諡(おくりな)」と書きます。これは、故人の生前の行いを称え、その生き様を尊ぶ気持ちを表すために、遺された人々が新たに贈る名前です。この風習は、日本古来の「忌み名(いみな)」という考え方に深く根ざしています。「忌み名」とは、人の名前、特に高貴な人の名前を直接呼ぶことを避ける習慣のことです。昔は、人の名前には霊的な力が宿ると考えられており、むやみに口にすることは、その人に災いをもたらす可能性があると信じられていました。そのため、特に位の高い人や高貴な身分の方の実名を口にするのは、大変失礼な行為とされていました。元服した男子には、実名の他に「字(あざな)」が与えられ、この「字」を使って呼び合うのが礼儀とされていました。この習慣は、実名を直接呼ぶことを避ける「忌み名」の風習が元となっています。このような文化的な背景から、死後も生前と同様に、故人の名前を直接呼ぶことを避けるようになり、代わりに新たな名前を贈ることで、故人を偲び、敬意を表すようになったのです。つまり、贈り名とは、単に名前を変えるだけでなく、日本古来の死生観、そして故人への深い尊敬の念が込められた、大切な儀式と言えるでしょう。